第2次別姓訴訟@広島高裁 控訴理由要旨 「わたしたちはこの訴訟に必ず勝ちます」

第2次別姓訴訟 高裁で弁護団から陳述された、控訴理由の要旨です。ボリュームありますが、大部の控訴理由書を、弁護団の皆さんが渾身の要約にし、締めの言葉を書いてくださいました。わたしたち原告団、弁護団の思いが満杯です。法廷に思いをはせてお読みください。

 

控訴理由の要旨

2020(令和2)年6月8日

 

別姓訴訟弁護団

1 夫婦同氏が婚姻の成立要件であること

戸籍法74条1号によって「夫婦が称する氏」は婚姻届の必要的記載事項とされています。「夫婦が称する氏」を定めない場合,婚姻届は受理されず,法律婚は成立しません。控訴人も,夫婦別氏を希望する旨を記載して婚姻届を提出しましたが,実際,受理されませんでした。このことから,夫婦同氏が婚姻の成立要件であることは明らかです。

原審は,この点について,判断を回避しています。しかし,被控訴人国ですら,甲第150号証で提出した別訴準備書面において,「夫婦が称する氏」を定めることが婚姻の成立要件であることを繰り返し述べ,そのことを認めています。

夫婦同氏は,明らかに婚姻の成立要件です。裁判所におかれては,このことを念頭に,正面から憲法判断をして下さい。

2 本件各規定が憲法14条1項に違反するものであること

原判決は,本件各規定が,信条ないし信念に着目して法律内容を区別しているものではないことを理由に憲法14条1項に違反しないとしました。しかし,これは詭弁です。

確かに,法文上は「信条」「信念」を基準とする文言にはなっていません。しかし,法律の構造上,夫婦別氏での婚姻を希望する信条・信念を有するカップルは,「夫婦が称する氏」を選択できず,法律婚ができない仕組みになっています。これは信条・信念を基準とする差別的取扱いそのものです。法文上,「信条」・「信念」を基準とすると定め方をしていなくても,そのことは,本質的には無意味です。

また,原判決は,本件各規定が,信条・信念にかかわらず一律適用されることも挙げます。しかし,法律は,不特定多数の人に対して適用されることが,その性質上当然に予定されています。一律適用されることは,いわば,法律として,あたりまえです。差的取扱いを否定する理由にはなりません。

憲法14条1項は,法適用の平等のみを意味するのではなく,法内容そのものも平等であることを意味します。本件各規定によって生じる差別的取扱いは,明らかに平等原則に反しています。

原判決の判断内容は,憲法判断を避けた詭弁であり,実質的判断を回避したに等しいです。

3 本件各規定が憲法24条に違反するものであること

⑴ はじめに

原判決は,憲法判断において,平成27年最大判を踏襲しました。しかし,平成27年最大判以降,選択肢なき夫婦同氏制を取り巻く状況は,甚だしく事情が変動しています。

⑵ 事情の変更

まず,平成27最大判以降の事情の変更について述べます。

ア 第一は,女性差別撤廃委員会の勧告と相次ぐ提訴です。

国連の女性差別撤廃委員会は,平成27年最大判後にとうとう3度目の改正勧告を行いました。それでも国会は動かないので,国内では,立法不作為の違法を訴える訴訟提起が相次ぎました。

イ 第二は,社会の変化です。

女性の就業率の増加(甲105,甲127),共働き世帯の増加と専業主婦世帯の減少(甲106)の傾向は顕著です。

女性の有業率の曲線が,いわゆるM字型カーブからなだらかな台形に変化していることも,女性の有業率の上昇,晩婚化,出産年齢の高齢化,結婚・出産を経ても就業を続ける女性の割合の増加という社会の変化を明らかにしています(甲105,甲128)。

女性の晩婚化と有業率の上昇に伴い,職場での旧姓使用のニーズが高まり,旧姓使用ができる場面が広がっています。一例として,裁判所や検察庁における旧姓使用者の数も増加の一途を辿っています(甲132,甲133)。

ウ 第三は,国民の意識の変化です。

2018(平30)年に国立社会保障・人口問題研究所で,結婚経験のある女性に対して実施された調査では,「別姓であってもよい」への賛成割合が半数を超え,特に30代では6割を超えました(甲107)。

また,2020(令2)年1月の全国世論調査では,選択的夫婦別姓について賛成が69%で,反対24%を大きく上回り,特に,50代以下の女性の8割以上は賛成でした(甲122)。

なお,同調査は,内閣府の世論調査と異なり,「通称使用」の選択肢がないことから,賛否の割合がより明確に把握できるものとなっています。

その他にも,選択的夫婦別姓の賛否について多くの調査が行われており,いずれも賛成が多数となっています。特に,2020(令2)年3月から4月にかけて行われた朝日新聞と東京大学の共同研究調査によれば,自民党支持層でも選択的夫婦別姓導入への賛成が半数を超えており,他方で,2019(令元)年の参院選の際に行った候補者を対象にした調査では,自民党の候補者の賛成派は19%にとどまっていることから,自民党候補者の意識と有権者との意識との間に大きなずれが生じていることが分かります(甲152)。市民の意識が国会に反映されない現状では,選択的夫婦別姓の導入には司法救済を求めざるを得ないのです。

エ 第四は,地方議会における意見書採択です。

動かない国会に業を煮やし,地方議会においては,「(国に対して)選択的夫婦別氏制の導入を求める意見書」が採択され続けており,平成27年最大判後,現在までの合計数は94自治体に及んでいます(甲108の1~甲108の24,甲121の1~2,142の1~22,149,151の1~4)。

⑶ 通称使用(旧氏併記)の拡大では夫婦同氏制の不利益が解消されないこと

次に通称使用(旧氏併記)の拡大では,夫婦同氏制の不利益が解消されないことを述べます。

2019(令元)年11月5日,住民票,マイナンバー等に旧氏を併記できるようにするための政令が施行されましたが,実効性がなく,混乱が広がっているばかりです。

例えば,健康保険証は旧姓使用ができませんし,不動産登記には旧姓併記されないため,住宅ローン契約等を旧姓のみで締結することはできません(甲111の3)。銀行口座,クレジットカード,携帯電話を旧姓のみで作成できるかは,各会社によって異なります(甲111の1,111の2,112の3,111の5,111の6)。納税及び税金還付の多くの場面では,仕事上旧姓を使用していたとしても,戸籍名を求められます(甲111の4)。パスポートには旧姓併記が認められていますが,チップには旧姓登録されないため,出入国管理等の場面において混乱が生じます(甲67の2)。弁護士は旧姓を職務上の氏名としていても,戸籍上の氏名での登録しか認められない場合があり,煩雑な対応を余儀なくされています(甲111の7)。

また,旧姓の通称使用や旧姓併記制度は,旧姓を名乗り続けたいにもかかわらず婚姻により改姓した者のアイデンティティの喪失感を何ら解決するものではありません。通称使用の範囲が限定的であること,管理の煩雑さ,戸籍氏の変更手続の負担を夫婦の一方のみが負う等の問題は残ります。

このように,通称使用の広がりは,夫婦同氏制の不利益を解消するものとはなりえません。

⑷ 小括

平成27年最大判に対しては,多くの批判があり,本件訴訟以外にも司法救済を求めるべく訴訟提起がなされています。御庁におかれては,現在の日本で起きている社会の変化,国民意識の変化,国際社会の動向,日本独自の通称使用(旧姓併記)制度の異様性などの事実を直視していただいた上で,平成27年最大判以降,選択肢なき夫婦同氏制の合理性が完全に失われているという事実を踏まえた適切な判断をしていただきたくお願いいたします。

4 条約違反

原判決は,女性差別撤廃条約について,国内法の整備がされなければ,権利は保障されず,要するに適用されないと判断しました。

しかしながら,条約は,国内において当然に効力を有しており,しかも,法律よりも優位に立つという解釈が,一般的です。したがって,国内法等の整備がされていないのであれば,これをする義務があるのであり,国内法がなければ条約は適用されないなどという原判決の判断は,明らかに論理が逆転しており,誤っています。そして,本件においては,日本の法令及び状況は,同条約の各規定に違反しているものと認めるのが相当です。

また,原判決は,自由権規約について,日本の法令及び状況は,同規約の各規定に違反しておらず,また,同規約の文言からは配偶者が婚姻前の姓の使用を保持する権利を保障するものとは読み取れない等と判断しました。

しかしながら,日本の法令及び状況は,同規約の各条項に違反しており,また,ウィーン条約によって定められた条約の解釈の方法を全く無視して,文言のみによって解釈するという,法令解釈ではおよそ行わない独自の解釈方法を採った原判決は,明らかに誤っています。そして,本件においては,日本の法令及び状況は,同規約に違反しているものと認めるのが相当です。

5 国家賠償

原判決は,国家賠償法上の違法性及び損害額について,判断を要しないとして,特段の論旨を示していません。

しかしながら,本件においては,国の行為は憲法に違反しており,国家賠償法上の違法性等の判断が必要となるところ,裁判所がこの点に関して従前から用いてる基準は,ア 国家賠償法1条1項の文言を無視し,国会議員の立法行為又は立法不作為については国家無答責の原則を採用した点,イ 要件を過度に加重して,憲法が定める三権分立の趣旨を完全に没却させる効果を生じさせている点において,いずれも誤っています。

よって,速やかに変更されるのが相当です。

6 終わりに

  私たちは,この訴訟に必ず勝ちます。

なぜなら,それが世界の常識だからです。

かつて,生存権が社会の常識となったように,プライバシー権が社会の常識となったように,どちらかが自分の氏を変えることなく結婚をすることができることが,やがてこの国の常識になります。

私たちの中には,法務省も含まれています。なぜなら,法務省は,既に平成8年に,選択的夫婦別姓制度を導入すべきであるとの結論に,至っているからです。

また,私たちの中には,裁判官も含まれています。なぜなら,裁判官こそが,この社会を変える力を持っており,その判断によって,あるべき社会をもたらすことを,使命としているからです。

そうして,私たちは,新しい社会をもたらします。結婚をしたいと望むすべての人が結婚することができる,誰もが幸せな社会です。

私たちは,その社会を導いた者たちとして,歴史に残ることとなるでしょう。

以 上